格安スキップ西安行き
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あとがき
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列車の旅も夜の部へとさしかかっていた。
隣席のW氏がウォークマンを取り出し半分聞かせてくれた。
そこから聞こえたのは井上陽水。
"海を越えたら・・上海・・・"
陽水を聞きながら、僕らは上海を越え、何処ともわからない暗闇の中を、窓からのぞく山林や、古ぼけた駅舎や農村を、ガタゴト揺れる列車から眺めていた。


延々と続く時間の中、急に腹痛をきたした僕は、二つほど車両を越えてトイレがある車両へと人の波をかき分けた。

しかし、そのトイレの前はまた長蛇の列である。
さすがにうんざりしていた僕に、それを見ていた一人の中国の若者が笑いながら日本語で話しかけてくるのだった。

リューという名の彼としばらく通路で話していたが、警戒心の強い僕はすぐに彼を信用できなかった。かなり流暢な日本語だが、どこか間の抜けた言葉が僕を不安にさせたのだ。
日本に留学中という彼だが、そんなお金持ちがなぜ飛行機を使わないんだろう?

途中の停車駅で、謎のリュー君に誘われ列車から降りてみた。これは実は彼の罠で、この縁も所縁もない、真っ暗な見知らぬ駅にこのまま取り残されたらどうしよう・・。
なんども振り返って列車が発進してしまわないか確認した。
そんな不安もありつつ、この気さくな謎の若者との出会いを楽しんでいた。

リュー君と一緒にいて、随分長い間席を離れてしまっていた。
W氏に一人で荷物の番をしてもらっているのも悪いので、僕はそろそろ席に戻ることにした。

だが、深夜を迎えていた硬座車両のその光景は、再び僕の常識を見事に打ち破ってくれたのだった。


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