成都の少年


2002年8月29日

成都という街で出会った少年がいる。

成都は中国の内陸にある四川省の州都で、かなり大きな街だ。


朝、列車で成都について、すぐ次の列車の切符を買ったにも関わらず、

それに乗り遅れた僕は、また次の列車、

夜の11時発の列車が来るまでここにいなければならなかった。

その一日、成都動物園に行ったり、街をさまよったりして時間を潰した。

 成都動物園のチケット
成都の路地裏



夜九時頃。

僕は成都駅前に戻っていた。

駅前は異様に広く、砂埃と人で溢れている。

駅舎の周りには、大きな荷物を持った何百人もの人が座りこんでいる。

あるいは、寝転んで、あるいは何かを食べて

自分たちの列車がくるのをまっているのだ。




中国の列車は完全指定制で、持っている切符の列車がホームにこないと、

ホーム内に入ることはできない。

さらに、数少ない切符を買うことが出来ない人もいる。

そのために待つ人が大勢外に溢れることになる。

僕は駅舎から200メートル程離れた所に歩き疲れて座っていた。

 

そのとき、一人の少年が近づいてきて、

何かをしきりに勧めてきた。

なんとなく宿のことだなと分った。

その少年は小学校一、二年生くらいに見えた。

だいたい駅前にリュックなどを持っていると、

タクシーやら宿やら、何かとしつこく勧誘されるのだが、

この少年もどうやら客引のようだ。

その子があまりに熱心なので

僕はその子と会話を試みることにした。

僕は中国製のメモ帳を取り出してその子に書いてと渡す。

漢字を見ると何となく意味が分かるのだ。

ふむふむ、やはり宿を勧めているのだな。

僕は今晩ここを出るということを漢字で書く。

えーと列車で。

どうやらその少年は分かってくれたみたいで納得した様子だ。

その子に学生なのかと問いを書く。

すると今年学校をやめたみたいな意味の漢字が。

なんとなくだけど。

それから

仕事はと書くと、やはり宿の仕事だと書いている。

多分、自分の家の手伝いだろう。


僕は子供なのに大変だなと思い、

好きなものは何かと聞くと

その宿屋の子は、自分は家業を愛していると書いた。


僕は何とも言えない気持ちになった。

だが彼は疲れた顔もせず笑顔だった。

そして誇りを持った顔をしていた。

何か、その宿の子にしてあげたくなった。
その子の宿に泊まりたかったが、そういう訳にもいかない。

僕は知ってるかと漫画を描いてあげた。

どういう反応だったかは覚えていない。

そして日本から持ってきた折り紙で鶴か何か作ってあげると、

その子は何か別のものを折ってくれた。

僕は残りの折り紙をあげた。


そうしてしばらく折り紙をしているとき

僕の鞄がかすかにかさりと音がする。

ぱっと見ると、不自然におやじが立っているのだ。

とっさにスリだと気づいてポリスポリスと叫ぶ。

そのおやじはにやにやしながら去っていった。

よく見ると持ち歩いていた中国製の煙草が無くなっていた。

僕は宿屋の子供がいたのでほっとくことにした。

せっかく楽しい時間を過ごしていたのにまったく。

でもその子はまるで気づいておらず、熱心に折り紙をしていた。

煙草だけで良かった。



そうしているうち列車の時間が近づいてきた。

僕はそろそろ行くよと宿屋の子に告げる。

どういう風に分かったのか忘れたが、

宿屋の子は駅まで僕を見送ってくれるというのだ。

こんな小さな子供が

見送ってくれることを考えてくれる。

なんとも嬉しい心づかいだった。


駅舎に入る前に荷物検査を通り抜ける。

その子は確か二階の待合室までついてきてくれた思う。

そこから先は切符がないと入れないのだ。

僕はその子に握手をして別れを告げてホームへと向かった。



おわり

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