サイドにインスタントコーヒーとシリアルが置いてあったので
テレビをつけ、置いてあった雑誌を開いて黙ってコーヒーを飲んだ。
ジムは大量の角砂糖を入れ、シリアルをありったけ皿に盛り
もくもくと食べ始めた。
ぼくはジムから離れようと雑誌を読むふり。何が書いてるかわからんけど。
正直、ジムには悪いと思った。
が、もし万が一
彼が暴走しだしたら・・。
まず僕には止められまい。言葉もあんまり分らんし。
早く誰か帰ってきてくれー。
pm7:00
やがてハンサムとそのガールフレンドが部屋へ入ってきた。
少しほっとする。
なんとかジムから離れる自然な口実を作らねば。
ハンサムはジムのことを、ぼくの連れだと思ってるようだ。
ちゃうんだよ〜、さっき会ったばかりの危険人物だよ〜!
そのときジムはおもむろにハンサムに話かけ、
煙草をせがんだ。
そうしてジムはもらった煙草をテーブルで巻いていると、
突然、彼は眠りに落ちた。
かくっ・・と、ほんとに突然である。
そしてまた眼を覚ます、またかくっとなる。それをずっと繰り返す。
ハンサムたちもあれっ?て顔をしている。
ジムの異常性に気付いたようである。
pm7:30
ジーンズのおやじ達が入ってきた。
この人も、十分あやしいが、
この際誰でも頼もしい。
しかしみんな、もうろうとしているジムを横目で見て、?って顔している。
休憩室には宿泊客(たぶん)が無言で集まり、
にわかに活気づき始めた。
ハンサムがテレビのチャンネルを変える。
ようやくジムが席を立つ。
彼はうろうろしていたが、行動は不明である。
僕はずっと半そでとサンダルなので寒かった。
着替えたいが、部屋でジムに鉢合わせしたくない。
我慢した。
昨日僕の部屋で煙草を吸ってた人や、
宿泊者ではない近所の住人らしき人もやってきた。
ここはどうも近所の溜まり場になってるようだ。
テレビはサッカー中継が始まりマンチェスターユナイテッドとどこかが試合していた。
そして休憩室は微妙な盛り上がりを見せる。
みんなサッカーに見入る。
シュートするとお〜・・(声小さい)って感じ。
素性の知れない人ばかりなのに
なぜか奇妙な連帯感を感じる。
マダムも煙草をふかして見ている。
まったくストレンジな宿である。
pm9:00
テレビ観戦は続く。
未だまどろんでいるジムにマダムは部屋で寝ろと勧めるが、
ジムは何か言って部屋へはいかない。
僕はすきを見て部屋へ着替えに。
ジムのベッドはめちゃめちゃに散乱していて、
財布まで放り出されている。
マダムはジムの正体に気付いているのか?
知っているのはのはぼくだけなのか?
みんな気づいているのか?ここユーロではよくあることなのか?
ジムは相変わらずうろうろしていた。
そのうち2階から
「きゃー」
という女性の悲鳴が聞こえる。
あ〜、ジムがついに何かやっちゃったのか・・。
マダムが上へ上がって行った。
結局なんだったか分からず、騒動にはならなかった。
pm10:00
事態は変化せず。
黒人のマッチョが休憩室に加わる。
僕は用心棒の為にマダムが呼んだんじゃないかと勘ぐった。
さらにスーパーで僕を放り出した奴に似たやつもやってくる。(たぶん違う、たぶん)
もはや僕の頭は思考停止していた。
ジムが降りてこないのでもう寝たかと思い
部屋を見に行くが声が聞こえたので退散した。
早く寝てくれ〜!
pm11:00
休憩室から人が減った。
ジムはいないが、まだ部屋へ戻るのは早いと思う。
ジムのベッドは僕のすぐ前なのだ。
かれこれ5時間くらいテレビを見ているよ・・(フランス語かオランダ語)。
もう見る必要もないが、見ているとなぜか安心することができた。
am12:00
感じ良いおじさんも上にあがらない。
もしや彼もジムのいる部屋へもどりたくないのかも。
ハンサムはこれ笑えるよとチャンネルを変えた。
写ったのは、犯罪者が警察に捕まるのを撮影する番組。
やくの売人がつかまって、手錠をかけられたりしている。
笑えなかった。
am1:00
マダムが休憩室を閉めるようだ。
ついに・・・
僕と感じ良いおやじは顔を見合し、仕方なく部屋へ上がることに。
ジムが寝てますように。
部屋はまだ電燈がついていた・・。
ジムは・・。
ベッドにいない!
テーブルに伏して寝ていた。
しかもジーンズおやじの目の前で寝ている!
しかも時々、奇怪な唸り声をあげる。
ジーンズおじさん、我慢してください。
僕は、しらねーとばかりに、彼が目を覚まさぬよう、
服のままそっと隣の寝床に入る。
僕は通りすがり旅行者、自分の身を守るしか術はないのです、お許しを・・。
しかし、我ながらよく寝られたよ。
翌日pm7:30
目を覚ますと、ジムはベッドで寝ていた。
僕は起こさないよう、そ〜とロッカーからリュックを取り出し、部屋を出た。
たすかった〜!
すぐに出るつもりだったけど
精神状態も安定していたので、
8時の朝食を少し食べることにした。
すると感じのよいおやじも起きてきた。
ジムのことをなんとなくふってみると、
床に転がっていたジムを、おじさんがベッドに運んだらしい。
いい人だね。
災難だったジーンズおじさんもおりて来た。
やはり眠りは浅かったか。
僕は朝食を急いで食べた。
なんだか、名残惜しくなってきたが、
ぼくはおじさんたちに挨拶して宿を出たのでした。
......................................................................
結局ジムと二度と話すことはなかった。
あの後、彼はどうなったんだろう?
今なら、別の行動を取れたと思ったりする。
あのホテルの人達ともっと交流できただろう。
余裕を失うと、視野が狭くなるものだ。
考えてみたら、最初からジムについて他の客と話ておけばよかったのだ。
無意識に彼をかばっていたのだろうか。
経験がないことは、何が正しい行動か判断が難しいものだ。
だが、無事だったからこそこうして振り返られるわけである。
今日もあそこには、行き場のないおじさん達が
あの部屋に集まっているのだろうか?
いつかもう一度訪ねてみたいものだ。
おしまい 読んでくれてありがとう!
アントワープの夜
a planet 08 sheeep |