わくせいひつじの
アート制作日誌

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4
ただの6月の巻き
1日目
5ヶ月ぶりに絵を描きにきた。
ひと月程しか経っていないように感じる我が203号は
すでに空気の入れ替えが済まされていて、
冬の記憶の手がかりすら、何処にも見当たりはしなかった。

甘い見当も、春と共にとおに過ぎ去っていた。
もう6月なのだ。
暑さに耐える予兆とともに、
抜け殻のようにただ呆然と佇むのみであった。
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時間が解決する。
そんな言葉が今はふさわしいような午後。
今日は初めて試みる水張りなる物をやってみた。
さらにジェッソという物を初めて下地として試してみた。

下地が乾く間の二時間、部屋の掃除をし、小説を読んだ。
204号さんと少し話した。

ケント紙に塗ったジェッソは上手く行ったが
紙が少々たわんでしまった。
これに油絵を描かねばならぬ。

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何度描いてみても、具体的に定着させたいイメージにはならなかった。
もう何処にも到達できない気がした。


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メルヘンの楽団がまだ明るいうちに演じられるのは奇妙であった。
6月。夢の魔力は覚めてしまったか。
それは、もはや甘い楽曲ではなくなっていた。
ただのぱん。僕は持参したパンを一人齧った。

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その後の三時間で描ききった。
結局、何処にも到達できぬまま、ぬかるみに沈むように筆を置いた。

不思議だけど、完成させる為の筆の意志だけは全自動だった。




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