わくせいひつじ08番/top
Fujiko in London
放浪と浮浪のはざまにて

act:1 ロンドン上陸
act:2 チューブにて
act:3 カムデンタウン
act:4 フジコあらわる
act:5 見えざる闘争
act:6 ラスト


act:1 ロンドン上陸

2009年4月 空港

北京で二日滞在のち、さらに12時間程のフライト。
ロンドンのヒースロー国際空港着。
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飛行機墜落の恐れからの解放。
神経衰弱。
地上のありがたみ。

たすかった・・・。

漢字の世界から、英語の世界へきた。
英語が世界標準なので、案内版も英語のみでしか表記していない。
不思議な感覚を覚える。
ぜんぶ英語や・・・。


イミグレにはあらゆる人種が溢れている。


税関の職員の人種もさまざまである。
サリーを着たインド人女性までも職員なのは驚いた。服装も自由なのだ。
制服一色の日本では考えられない。

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僕に当たったのは生粋のイギリス人のおじさん。たぶん。

「Japanese?
Are you alone? O.K. ありがと、さよならーっ」
気さくである。




act:2 チューブにて

PM:7:00
空港→地下鉄(チューブ)

チューブの切符

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チューブは車両も地下道もかなり狭い。
モグラのように地下を進む感じだ。tubeの名前通り。

リュックが旅行者丸出しだが平常心を装うなり。
あーどきどき


向かいに座っていたロンドンッ子のファッションチェック。
前には緑のジャケットを着た、お洒落な黒髪の若い女性。
その隣には刺繍入りトレーナーパンツをダブッと履いた、
悪そうな兄ちゃんとその彼女。

あちらこちらでピアスやタトゥーを入れた人を見た。
ぼく 
Londonに いる・・・。

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ピカデリーラインからノーザンラインに乗り換え
Piccadi l l y l i n e →Northenline



最初はチューブも緊張したが、なれるとチューブ内で放置されている
チューブ用?新聞を、まわし読みする。
みんなそうしてるのだ。




act:3 カムデンタウン

Camden town St.着
ここに予約したユースホステルがある。

分かってるのはユースの住所のみだった。

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駅を出る。
町への最初の一歩を踏み出す時はいつも衝撃を受ける。
見慣れた風景とのギャップに驚かされるのである。


街灯が黄色く
建物の陰影が際立つ。
フェンスや信号機が黒い!
ごみ箱も黒い!


かっこいー。が、緊張・・。宿・・宿どこだっ

駅の前は六つ又の交差点になっていて、方角が全く分からない。

リュック背負ってうろうろろろ・・・
看板やバス亭の地図を見ながら小一時間。
やっと見つけることができた。

smart Comeden inn 
駅から徒歩五分。立地条件はよいが、シャワー室が信じられないくらい狭い。

縦長のつくり。
床や階段が黒の丸いブロックでかっこよい。
朝食が好きなだけ食べられるのがよかった。



act:4 フジコあらわる

リュックを置くと一安心。
夜ご飯を求めカムデンタウンを歩く。

予想以上にあちこちにパブがあり。人も多い。
都会だ、わっしょい。でもビルが低くていいね。

結局マクドナルドに入る。

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ずいぶん汚れたマクドだった。
店内をあまり掃除していないような雰囲気である。

内装は

値段も日本と同じようだ。
パネルを指さし、あれを一つとか言って適当なセットを頼む。
お手軽なり。

店内はそれほど込んでおらずあちらこちら席は空いている。
最初に座った席が汚れていたので
一人でパソコンしてるお姉さんの、
二つとなりのイスに移る。

テーブルは一席にひとつ。
すぐ目の前に、空いたテーブル席が三つある。
僕とお姉さんの間にひとつ空いた席。

そして

僕から
まっすぐ向こうのドア付近に、
向かい合うようにおばさんが座っていた。


それが
フジコであった。


フジコというのはあのピアニスト、
フジコヘミングのことで、
こんなところで一人座っているわけはないんですが。

とにかく
かなり似ていた。
もちろんうらぶれたフジコである。



act:5 見えざる闘争

僕から彼女まではだいぶ距離があり
彼女は別に何を食べるでもなく座っている。

似てるなと思いながら、バーガーをむしゃむしゃ食べた。
食べながら二回ほど目が合う。

彼女は物乞いとまでではないが、明らかに古ぼけたコートを羽織っている。
行くとこもなく休んでいるといった感じだ。

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僕は食べ終わった後、
そんなフジコを前に、お金をテーブルの上に
ジャラジャラとひろげた。
所持金を数えたかったのだ。


そして無造作にショルダーバッグも机の上に放り出した。
軽率だった。
すると


ふいに、フジコがスクッと立ち上がった。

そして彼女の持ち物、
マクドのくしゃくしゃの紙袋(ごみ)を引っ掴むと、
まっすぐこちらへ向かってつかつかと歩いてきた。

視線は合わない。
そしてまさかと思いきや、


僕とお姉さんの前までくると
僕らの間にわざわざ座ったのである。

あちこち席が空いているのにも関わらず、
しかも
目の前に空いた席があるにも関わらず、
狭いとこに三人が並ぶかっこうになる。




act:6 ラスト

かなり微妙な空気が流れた。

どう考えてもかなりあやしいやつだ・・・。
彼女の目的は見え見えだ。
だいたい、食べ物も持ってないのに移動する必要がない。

スキを見せたとはいえ分りやす過ぎる。
しかも初日からこんな人に鉢合わすなんて・・。

フジコはまっすぐ前を向いているが、何かを狙っている雰囲気が漂っている。
彼女には申し訳ないが
僕はゆっくりとお金をポケットに入れ、鞄をつかみ
マクドナルドを後にした。
ついてきたらまずいよなと、後ろを振り返りながら。
ユースまで半分ダッシュした。

こええ〜。
だが間抜けなフジコ。

そしてやはり気の抜けない
ロンドンの夜。


おしまい

2009/4/16 camden town